エジプト・アラブ共和国(以下、エジプト)の公的保健医療サービスは全体的に改善されつつあるものの、多くの課題を抱えおり、医療費は無料もしくは安価であるにもかかわらず、高額な民間医療施設を選択する傾向にある。患者の自己負担率は61%と高く、最貧困層は、家計の21%を医療費に充てている。さらに、国民全体の2 割が医療費の支払いにより家計破たんをきたしていることも報告されている。旧来の医療保険制度は、対象者により異なる法律・制度に基づき設立されており、制度間でのサービス格差、負担率格差、加入率の低さ、医療保険行政の硬直化などの課題を抱えている。
こうした状況に対し、同国政府は2018年に国民皆保険法を制定し、社会保障全般の見直しを進め、カバー率の向上と質の高い保健医療サービス提供を目指している。本法律に基づき国民皆保険制度が導入されることとなった。医療保険制度を支えるため、診療報酬単価設定、診療報酬支払を担う国民皆保険機構(Universal Health Insurance Agency: UHIA)、国民皆保険制度下で医療サービスを提供することが認証された病院管理を担う病院機構(General Authority for Healthcare Provider: GAHP)、国民皆保険制度下での医療サービスを提供するに足る医療施設であることの認証を担う認証基準機構(General Authority for Healthcare Accreditation and Regulation: GAHAR)が新設され、2019 年からポートサイード県への導入が開始されている。
現在、UHIA、GAHP、GAHAR においては、制度設計、人材育成等の途上にあり、円滑な制度運用のためには、貧困者・インフォーマルセクター従事者の加入率・利用率上昇、診療報酬請求支払い制度、IT システム等、制度立ち上げについての課題に対応する必要がある。JICA はエジプトに対して本邦への招聘、現地セミナー等を通じて我が国の国民皆保険制度の導入や運営にかかる知見に基づいた協力を行ってきており、これらの経緯を踏まえエジプト側より新国民皆保険制度導入にかかる技術協力の要請がなされた。しかし、2020 年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大は、COVID-19 以外の症状・疾病での医療施設の受診控えや、観光業等の主要産業への影響に伴う経済の停滞と貧困層の増加を引き起こしており、国民皆保険下での質の高い医療サービスを提供するという目標達成への障害となっている。JICA はこうした新たな課題も踏まえ、本プロジェクトを二段階方式で立ち上げ、基本計画を策定するための調査実施を決定した。
当社は、基本計画の策定を目的とする当該調査にコンサルタントを派遣し、対象国であるエジプトにおける調査も含め、多岐にわたる情報を収集し、また分析を行い、調査結果をまとめ、関係者と共有し、基本計画の策定に協力している。